2010/04/01

タルコフスキーの最後の6分間

狂気に陥った主人公アレクサンダーが自分の家に火をつける。
タルコフスキー監督の最後の作品のラストシーンです。映画史上もっとも美しい「ワンシーン・ワンカット」の一つと言われてます。 日本語では「長回し」とも言うこの撮影技術は35ミリカメラの中に入るロール・フィルムの長さの限界が当時のカメラでは6分間。 その間はカットなしの演出です。この技術で有名なのは溝口健二監督でタルコフスキーは彼の作品をこよなく愛していたそうです。
それに、ここではカメラをレールに乗せて左右に移動させながらのトラッキング撮影でこのシーンを撮りました。そして悲劇が起こります。


この撮影の真っ最中にカメラが故障してしまい、そのまま家は燃え尽きてしまいます。。。 カメラは一台しか回していなくまさしく悲劇です。彼はこのシーンをカットで別のシーンと繋いで使う事を固く拒みました。そしてとうとう製作スタッフは家を立て直しする事に成功し、2週間後に撮影し直します。2度目はカメラも上下にずらして二台設置してます。上のカメラにはタルコフスキー自身が回してます。
仏人監督クリス・マルケルのドキュメンタリーに詳しく語られています。最後に急にカットがくるのはロールフィルムが切れた瞬間です。
燃えた家の建て直しと言えば黒澤明監督が「七人の侍」のなかで燃える炎に納得せずもう一度建て直したのは有名な話です。タルコフスキーは新作に取り組む前にはいつも溝口の『雨月物語』と黒沢の『七人の侍』を見ていたそうで、日本映画もその昔は凄かったのだと思い知らされます。。。そんな日本映画のオマージュなのか狂気の主人公アレクサンダーは紋付きの着物を身につけてますが、その着物も一緒に救急車につれていかれます。 


ちょっと悲観的かもしれないけど、僕にはこのラストシーンと共にある時代の映画芸術が終わったような気がします。
事実この頃スウェーデンの巨匠にベルイマン監督は映画引退を宣言し、アントニオーニ監督も謎の「失語症」になってしまい映画を撮らなくなってしまってまいます。
ベルイマンはずっと年下のタルコフスキーのこと最も偉大な監督だと言ってます。

  彼の最初の作品を見て、私は奇跡だと思った。
  やっと見つけた鍵を手にして閉ざされた部屋の扉の前に立つ私。
  ずうっと入ってみたかったその部屋の中で彼は自由に行き来しているのだ。。。


ベルイマンの私有の小さな島で『サクリファイス』は撮影されました。
この二度目の6分間のショットが終了した時に、演じた人たちも撮影スタッフも製作スタッフも、全員が泣き崩れたそうです。。。このシーンの数ヶ月後に他界してます。この時彼は自分の死を予感んしていたのだろうか。。。などと考えてしまう。

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