2009/09/28

サヴォア邸 1931年


緑の芝生の上に細い柱(ピロティ)がちょんと建っていて、まるでUFOが空から舞い降りたのようです。
ル・コルビジェ(1887−1965)が1928年に設計し、1931年に竣工した建物。『サヴォア邸』とよばれています。
パリ郊外、西へ車で40分位行ったところにある、ポワシーという町にあります。1927年に『近代建築の5原則』を掲げた彼はそれを実際にこの作品に反映させたものです。このピロティで持ち上げられた床のおかげで地上階は車庫にあてられ上の階の生活空間の構成が自由になり、そして横長の大胆な連続窓をファッサードに開けることが可能になる。
屋上テラスには草木が植えられ、ソラリヨムという日光浴の場所もあります。これほどの自由な空間を可能にする近代建築のマニフェストとも言える作品です。

テラスに面した大きな窓は、開閉できて、可動式のガラスの壁といえるくらい当時としてはとても大胆ですね。

ゆるいスロープでアクセスできる2階。
階段の上からは美しい光が降り注いでいる。。。

バスルームは長椅子の形をした壁で仕切られてます。
80年前のキッチン、今でも通用しますね。    

2009/09/15

サン・ゼノ教会 (12世紀初頭)




サン・ゼノ教会はヴェローナで最も有名な教会です。12世紀初めに建てられたもので、四世紀にヴェローナの司祭だった聖ゼノに捧げられています。中に入ると、この頃の教会にしては壮大なプロポーションに驚かされます。その高さはゴシック建築並みで、中にはジオット派の壁画がで飾られていた後が残っており、また修道院も昔のままの形で保存されています。


そして最高の見所は正門のブロンズのレリーフの大扉です。新・旧訳聖書の物語が漫画のように一コマずつ描かれていて、左右合わせると見事なファッサードになります。



聖ゼノの逸話も入ってます。とても貧しい生活をしていて、魚を釣って食をとっていた彼はいつも釣りをしている姿で描かれています。

それがいつの日からか釣り人の守護聖人になってるそうです。このレリーフが好きです、水の波の下に魚が泳いでます!
そして、ここにはもう一つ重要な作品があります。ルネッサンスの画家マンテーニャの祭壇画です。
但し現在も修復中で、原寸大の複製写真が壁に飾られていました。以前に来た時も見られずじまいでした。

スカルパ / カステルヴェッキオ美術館



ヴェローナの「古いお城」にある美術館。改修設計をしたのは、カルロ・スカルパ。彼の作品でも最も代表的なものです。古い中世の建物と現代建築の融合が見事です。

古いレンガの壁とコンクリートの調和。鍛鉄の格子戸も重厚なマチエールと軽快なプロポーションの対比が彼独特だ。
格子戸は日本建築からインスピレーションを受けているけど、完全に彼の中で消化され独自の美を生み出している。
美しい打ちっぱなしコンクリートを見ると、安藤忠雄氏の作品を思い浮かべずにはいられない。

今年6月ヴェニスにオープンしたピノー財団の現代美術コレクションは古い建物を改修したもので、安藤氏が設計したものだが、この半世紀前のスカルパの仕事と比べると、その繊細さに関しては雲泥の差がある。

ピノー財団は駆け足で作られたものだが、カステルヴェッキオは10年近くをかけて作られている。
勿論「予算の関係」もあるのだろうが、ピノー氏は世界でも指折りの富豪家でまがりにも「アート」を扱う「文化人」だと思うと不思議に思う。。。スカルパの時代は「建築」というものが別の次元にあった時代だったのだろう。
ヴェニスのピノー財団の窓には格子戸があり、安藤氏のスカルパへのオマージュだとはすぐ解るけど、近づいてみると作りは薄っぺらでディティールもなく、そのギャップに驚いてしまう。建築雑誌の写真には綺麗に収まっているけれど。。。優秀な鍛鉄職人はヨーロッパにはまだまだいるのだから、捜せば見つかりそうなものだけど、今日では、建築家にはそういう時間も与えられないのだろう。。。
そう思うとスカルパのこの仕事がとても貴重な物に思えてくる。

もう誰もこのような仕事にお金と時間を費やす人はいないのかもしれない。

2009/09/10

『ミレニアム・マンボ』(千禧曼波)2001年





台湾映画、ニューウェーヴの旗手、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の作品。一人の女性が一人の男から別の男へ揺れ動く瞬間を、ミュージック・ビデオをかなり意識したカメラワークを駆使し、新鮮なタッチで描いている。一世風靡していたライバル香港映画も意識してたのだろう。。。


恋人が撮影してるとしか思えないくらい、主人公を演じるスー・チー(舒淇)が美しい。この映画ではじめて知った女優だったけど、上映中その美しさに開いた口が塞がらないほど、虜になっていました。






そして忘れられないラストシーン。雪の北海道、夕張の町の中にあるキネマ街道が舞台。スー・チーが役を演じてるのか、それとも彼女自身を演じてるのか、見ていてちょっと戸惑ってしまう。「映画へのオマージュ」の映画だ。


2009/09/08

ラ・ジュテ(La jetée) 1962年



パリのオルリー空港の展望台で、子供の頃に見たある出来事の残像にとらわれた男の話。「記憶と時」をさまようクリス・マルケルのSF映画。白黒写真を編集した短編映画です。『サン・ソレイユ』と同様、映画史上重要な位置にあり、世界中にファンがいるカルト的存在の作品です。イギリスの鬼才ピーター・グリーナウェイ監督はこの作品をみて映画を始める事を決心したそうです。



スチール写真だけを編集して『語り』だけで、ストーリーを展開して行くのですが。その緻密な編集と繊細な音響効果は、観る人をどんどん話の中に引き込んで行きます。見終わると長編映画を見た錯覚に陥ります。やはり映画で重要なのはカットの数によるのだと思います。ただ多ければいいわけでもなく、大事なのはカットの編集のリズムなんだと思い知らされる作品です。たった26分で長編並みの編集がされています。



アメリカ映画の『12モンキー』はこの作品をリメイクしたもので、大スターが二人も出演。ブルース・ウィリス主演、そしてブラット・ピットの素晴らしい演技でアカデミーの助演男優賞にノミネートされるほどで、見応えのある作品ですが、ストーリーの『エッセンス』というか、緊張感は断然にこの原作のほうがありますね。『12モンキー』の監督はあのテリー・ギリアムだけど、これは自分の作品というよりも、シナリオ通りに撮った、プロデューサーからの注文作品のような感はまぬがれない。実際、彼は封切り当時のインタビューではマルケルの原作であるこの「作品を見た事がなかった。」というちょいと信じられない発言をしていた。いかに有名な監督と大スターを二人を導引した大作でもっても、マルケルのほんの数人で製作した小品の宝石のような輝きは真似できなかったですね。

マルケルは、あの頃友人が持っていた、人気のあった一眼レフカメラ『ペンタックス』を借りて写真を撮ったといっている。その製作プロセスの簡単さが作品のシャープさの秘密なのかもしれない。

マルケルのこの作品に少なからずも影響をうけている映画は数多いです。
『世界の果てまで』(ヴェンダース監督)のなかで目の見えない母に映像を脳の中で再現するシーンや、近年では『マトリックス』でも、完全に40年前のこの映画の世界観にインスピレーションを求めています。  

ぼ〜うえんだよ。



「ぼんだよ。いどだよ。」

懐かしい〜コマーシャル。
ペンタプリズムを取り入れた世界初の一眼レフカメラのコマーシャル。
カメラも画期的であれば、CMも画期的です!

2009/09/03

惑星ソラリス 1972年


タルコフスキーのソビエト時代のSF映画の一シーン。首都高速は未来の都市をイメージしたものだった。哲学的SF作品ではキューブリックの『2001年、宇宙の旅』と並ぶ重要な作品だが、その難解さから1977年に日本で公開され、友人である黒沢明が一生懸命に日本に紹介したけれど、全くの理解されず酷評だった。

2009/09/02

秋刀魚の味 1962年







小津安二郎の遺作となったこの作品は、「東京物語」とならんで彼の最もポピュラーな作品です。映画には「秋刀魚」という言葉が一度も出てくる訳でもなく、また「さんま」を食べる場面がある訳でもない。何故「さんま」なのか?
フランスでは「LE GOUT DE SAKE=酒の味」という具合に訳されてます。確かにお酒を飲んでるシーンが沢山あり、こう訳されてもしょうがないと思うけど。

「さんま」は俳句でいう所の「季語」で、季節は秋。食べごろは当然油の乗った秋が一番美味しい時期。つまり秋には、秋の季節を味わなければならない。妻に先立たれ、「人生の秋」にたつ主人公平山周平(笠智衆)は、娘路子(岩下志麻)を手放すという決断をしなければならない。高校の漢文の先生だった佐久間(東野英治郎)は、細々とラーメン屋を営んでいるが、妻に早死にされて、ついつい娘伴子(杉村春子)を嫁に出す時期を失ってしまっていた。それを見て平山は娘が早く結婚するようにと決心する。先生のラーメン屋の名前は「燕来軒」。つばめを待つ家は「春」を待つ「冬」であるが、娘を嫁に出しそこねた彼には春はやってこない。。。 平山の一番下の息子和夫は、ほんのりと恋をし始めた「春」。長男幸一夫婦はまだ喧嘩も耐えない「夏」。そんな人生を俳句の四季に喩えて語られてる美しい作品だと思います。日本人独特の人生感でしょう。当時ヨーロッパではまったく理解されなかったのも当然かもしれませんね。


そしてこの作品が小津監督の最後のメッセージだと思うとやはり感慨深く見てしまう作品です。 ☞




猿の惑星 1968年




子供の時に見たこの映画の内容は殆ど忘れてしまったけれど、チャールトン・ヘストンが泣き叫ぶラストシーンは強烈で今でも憶えています。 ☞

誰がために鐘は鳴る 1943年





ヘミングウェイの同名の小説を原作とするサム・ウッド監督の作品。これもまた『カサブランカ』についでヨーロッパでの戦場を舞台にしている。ラブ・ロマンス『カサブランカ』で一躍有名になったイングリッド・バーグマンが、今度は一転してスペイン戦争真っ只中、レジスタンスの役で出演。彼女のショートカットの髪型が話題を呼んだ。長身のバーグマンは『カサブランカ』では背の高くないボガートのカメラワークは大変だったようですが、ここではゲーリー・クーパーは身長191cm、彼女が小さくか弱にみえますね。 ☞


カサブランカ 1942年




封切りと同時に世界的に大ヒットしたマイケル・カーティス監督の作品。既に「ハード・ボイルド」で有名だったハンフリー・ボガートと新人イングリッド・バーグマンの共演。ラストシーンで『VICHY=ヴィッシー』のミネラルウォターの瓶を捨てる意味も含め、ナチス党と『コラボ』したフランスの『ヴィッシー政府』という複雑な当時の政治的背景を前提にした緻密な脚本は当時珍しかった。結果的に第二次大戦で米軍のヨーロッパ進出の準備であったともいわれる程、この作品のインパクトは凄かったらしい。
挿入歌の『As time goes by』も世界的ヒットとなり後にジャズスタンダードになりました。




この映画はクランク・インした時はまだシナリオが出来ておらず、アメリカ映画の製作プロセスでは非常に珍しく、そのためイングリット・バーグマンは最後までどちらの男を好きになればいいのか解らなかったらしい、その曖昧な表情がこの映画にまた奥行きを与えているのだと思う。
彼女はこの映画で突然大スターになった記念的作品です。彼女の知的美しさに皆が魅了されました。ヘミングウェイは彼の原作著『誰がために鐘は鳴る』の映画化の際に主人公に彼女を希望したと言われています。 ☞

東京物語 1953年







小津安二郎監督の最も有名な作品。そして最も完成度の高い作品でしょう。世界中の映画関係者によるアンケートでいつも「映画史上に最も重要な映画ベスト10」に必ず入っている。当時フランスでも上映されたそうだけど、全く無視されたようで、あのフランソワ・トリュフォーさえも「退屈な作品」だと批判している。。。
そして四半世紀たった1978年に再びヨーロッパで上映された時、初めてその正しい評価を得て、そして立て続けに小津監督の他の作品も上映されるようになりました。






最初と最後に出てくる尾道の街並とその中を突き抜ける蒸気機関車がこの作品のシンボルのようだ。線路脇にある洗濯物が印象的だった。小津独特の低いカメラアングルも、そして50ミリの標準レンズのみを使い、撮影に対するの徹底ぶりと真剣さがひしひしと伝わってくる。


老け役を演ずる笠智衆、この時彼はまだ40代後半。素晴らしい演技だ。子供の頃に父に、「この俳優一本調子で変なしゃべり方するね」といったら、父が「その一本調子で演技ができるのだから、実に上手いと思わないか。」と言われ僕は「ふ~ん。。。」って返事してだけど、今になってやっと彼の役者としての偉大さがわかりました。






そして山村聰やカリスマ的大女優の杉村春子の名演技も素晴らしい。おばあさん役の東山千栄子も偉大な舞台女優で、数少ない映画出演ではこの作品が最も有名です。
そしてやはり原節子が素晴らしい。「スター」とはこういう人の事を言うのだろう。。。彼女が仕事を一日休みをとって老夫婦と一緒にはとバスにのって東京見物するのだけど、バスの中で揺れる後ろ姿が微笑ましく僕にとっては忘れられない名場面です。

彼女は小津安二郎の死後、映画界を去り、以後まったくもって公共の場に現れていない。スエーデンの大女優グレータ・ガルボも同じように隠遁生活を送った。プライベートを守り続けると同時に、映画の持つ「夢」を我々に与え続けている。。。  ☞


2009/09/01

モナ・ハトゥン展(ヴェニス) 2009年




今回のヴェネチア・ビエンナーレに関連した展覧会で最もよかったものの一つはクリニア・スタンパリ財団でのモナ・ハトゥン展でした。
モナ・ハトゥンは1952年にベイルート生まれの女性作家です。政治的理由から故郷パレスチナを離れてカナダのバンクーバーに移り、後にロンドンに拠点を構え現在にいたっています。

パリ、テキサス (1984年)





カンヌ映画祭でグランプリを獲得した作品で、ヴェンダース監督が一躍有名になった映画です。シナリオはアメリカの劇作家サム・シェパード。音楽はライ・クーダー、映画は知らなくてもこの音楽を耳にした人はいると思う。
記憶を失った一人の男トラヴィスがテキサスの砂漠をさまよい歩くところから始まります。砂漠にある店で気を失い倒れ、弟ウォルトが迎えにくるが一言も口をきかない状態。
そして、やっと初めて口にした言葉が「パリ」。弟の家で実の息子ハンターに再会するも、彼との距離はなかなかちぢまらない。でも二人は結局、トラヴィスの消えた妻ジェーンを捜しに一緒に旅にでる。彼女は義弟に毎月同じ場所から送金していた。

しかしそこに、見つけたのは「覗き部屋」で働くジェーンの姿。。。
ジェーン役のナターシャ・キンスキーが最も綺麗に撮られている映画だと思う。彼女が13歳の時に最初にに女優として映画に使ったのは、このヴェンダース監督だった。

そして最後にハンターが母ジェーンに再会するのを見届けて去って行くトラヴィス。とうとう最後まで主人公の二人は顔を会わせる事がなかった。

ライ・クーダーのギターの奏でる音色と、画家エドワード・ホッパーの絵を思い出させる、ロビー・ミュラーの映像が最高に美しい作品です。『さすらい』で代表される白黒時代とはまたちがうスケールで見応えのある作品です。

「ねたばれ」しないように詳しく書きませんでしたが、是非ともおすすめの映画です!