『リトル・ダンサー(Billy Eliott)』で有名になったS・ダルドリーの監督で、マイケル・カニンガムの同名原作による作品。
違う時代と空間に生きた三人の女性たちそれぞれの,或る一日の話。
このかけ離れた三つの時代をつなげるのは、一冊の小説『ダロウェー夫人』。
現代のニューヨークに生きる出版者クラリッサは「ダロウェー夫人」のあだ名で呼ばれる。彼女はエイズの病に苦しむ親友リチャードのためにパーティーを開く事を決めその準備のために奔走する一日。
ローラは1950年代のロサンジェルスに住む。息子と一緒に夫の誕生日のための準備をするのだけど家庭の主婦という人生に満足できず、なんとかそこから脱け出したく思っている。息子リッチは母を溺愛してるが、母の鬱の病を知っている。彼女の愛読書は『ダロウェー夫人』。
そして1923年、ヴァージニアは「静養のため」と夫レナード・ウルフに勧められロンドン郊外のリッチモンドの一軒家に引っ越し、『ダロウェー夫人』の執筆に取りかかろうとしている。
「私が花を買ってくるわ」で始まるヴァージニア・ウルフの名作を通して、三つの違った時間がこの映画のなかで巡り合うという、まさしく映画ならではの世界です。
いくつもの違った話がそれぞれ並行して進む形は、80年代からハリウッド映画やテレビドラマによく使われる手法でもあって、沢山の話を交錯させればリモコン片手に見る視聴者の「ザッピング」を防ぐ効果でもあるけど、世界中のドラマやベストセラーが同じようなフォーマリズムに中にはまりこんで行く兆しもあります。そんな中でこの作品はその手法が上手く生かされて、その三人の人生の巡り合いこそがテーマという事で主題と形がぴったりと言う感じがしました。
この三人の女性を演じるのは、メリル・ストリープとジュリアン・ムーアとニコル・キッドマンという大女優たち。ベルリン映画祭ではこの三人が揃って主演女優賞(銀熊賞)を受賞したのは大変話題になった。生きる女性の讃歌ともいえるこの作品にはこの賞は凄く妥当だと思った。アメリカのアカデミー主演女優賞ではニコル・キッドマンが受賞、着け鼻をつけてヴァージニア・ウルフを演じた演技を讃えてということだけど、M・ストリープもJ・ムーアも本当に勝るとも劣らない演技だったのは皆が認めるところでした。でもトム・クルーズと別れたあとスターになりつつあったニコル・キッドマンに賞を渡す事で『大スター』を必要とする映画産業が選んだと言われた。ベルリンの銀熊賞はそれへの抗議とも言えるでしょうね。。。少なくとも発表されたときは皆そう受け取った。
確かに映画が終わったあと「ニコル・キッドマンは何処に出てたっけ。。。」と思わせる程、彼女の変身ぶりと演技は目を見張るものがあった。(僕も最後まで彼女だと気がつきませんでした。)あれは「メイク」の仕事が素晴らしいからだと言う専門家達もいた。うん確かに。。。
これで一躍大スターになったキッドマンはそのあと「最も高額の女優」で有名になったけれども、運命の皮肉なのか以後まったくいい作品に恵まれないのはおそらく偶然ではないでしょう。。。